研究内容
研究計画
概要
本プロジェクトは、以下の3本の柱から構成されています。
- プラズマ乱流統合観測システム−PLATOの製作と実験
- 直線プラズマにおける支援実験
- プラズマ乱流の解析法および理論・シミュレーションの展開
この3本の柱により、乱流パターン(スケール間結合と乱流偏在)と乱流プラズマの特性の関係を探求します。 ここで、スケール間結合とは微視的揺動成分、帯状流、巨視的揺らぎ構造間の結合の有様(結合強度およびエネルギーの分配比)を指し、乱流偏在とは磁気面のある領域に局在する乱流、乱流の対称性の破れを指します。
プラズマ乱流統合観測システム−PLATOの製作と実験
PLATOではトカマク型のトーラス型プラズマを観測対象の乱流プラズマとして生成し、トモグラフィーや重イオンビームプローブを中心とした先進計測をもちいて乱流パターンとプラズマ特性を探求するための物理実験装置です。
PLATOはトーラスプラズマ生成部及びスーパートモグラフィー(2台)と重イオンビームプローブ(3台)から構成されています。
現在、プラズマ先生部本体および主となる計測器(トモグラフィーと重イオンビームプローブ)を製作中で、平成30年度の夏には装置が完成する予定です。
また、装置を設置する予定の建物(乱流プラズマ実験棟)の整備が現在進められています。
トーラスプラズマ生成部は、主に、真空容器、コイル、コイル電源から構成されています。
主半径0.6m 平均副半径0.2m磁場0.4T、フラットトップ200msとして製作中である。
PLATOの元となる設計は、九州大学・応用力学研究所の所内報(乱流実験トーラス装置の設計 松岡啓介 第141号(51-85) 2011年9月)として出版されています。
真空容器は他のトカマク型装置にはない特徴的な構造を持っています。
PLATOが目的とする大域局所精密観測の主力トモグラフィーを実現するには十分多くの視線を、プラズマを周回するように配置する必要があります。
そのために、全面がポート(覗き窓)になった特別な真空容器が設計されました。
装置の特徴は、物理実験に必要な機動性/近接性を重視して、真空容器をモジュラー化(8分割)しています。
2本のトロイダルコイルに挟まれた真空容器部分を1セクションとすると、1セクションからなる4つのモジュラー真空容器Aと3セクション分の4つのモジュラー真空容器Bからなっています。
モジュラー真空容器Aはトモグラフィーと重イオンビームプローブ用のポートとして準備され、外側と内側、上下に観測窓が取り付けられ内側からもプラズマを観測できる構造になっています(図参照)。
コイルはトカマクの基本となるトロイダル磁場を生成する16本のトロイダルコイル、プラズマ位置や形状制御のための5対のポロイダルコイル、プラズマ電流を流すためのオーミックコイルからなります。
これらのコイルを使って平衡計算から得られるプラズマの断面形状を図に例示します。
それぞれのコイルには電流を流すための大型の電源が必要です。
現在3対のポロイダルコイル(Q、D、H)の電源とオーミック電源を日本コンデンサー株式会社が制作中です。
トロイダルコイル電源としては、本装置のトロイダルコイル電源としては、東工大島田名誉教授が設計した小型フライホイールを用いることを検討しています。
愛知電機株式会社が製作に協力していただいてます。
総計1500チャンネルを準備し、可視、紫外、X線領域の光を用い、それぞれプラズマ周辺、プラズマエッジ、プラズマ中心をトロイダル方向2カ所のポロイダル断面で観測します。
時空間分解能としては、イオンラーマ半径(~1cm)、ドリフト波周波数程度(~数10 kHz)を目指しています。
乱流トモグラフィーの開発として、九大の直線装置PANTAおよび東工大のPHIXトカマクを対象としてプロトタイプ装置を製作し、現在、予備実験を行なっています。
重イオンビームプローブ3台を異なるトロイダル位置に設置しプラズマを観測します。
トロイダル磁場0.3Tに対しビーム種にセシウムを用いた場合必要なエネルギーは40keV以下で加速管を設置する必要なく、比較的安価に製作できることが、メリットです。
本プロジェクトのPLATO実験として以下のようなものが想定されています。
トーラスプラズマ生成部
i) 真空容器
ii) コイル群
iii) コイル電源
乱流トモグラフィーについて
重イオンビームプローブ(HIBP)について
PLATO実験
直線プラズマにおける支援実験
直線プラズマ実験装置PANTA
州大学極限プラズマ連携センターには直線プラズマ生成装置PANTAがあります。 PANTAでは数eV程度の電子温度を持つ、伝統的なプローブによる多チャンネルのプラズマ計測が実現しやすいプラズマを生成しています。 これまでには、プラズマ乱流中でおこる波同士の非線型結合の様子、ストリーマーと呼ばれる微視的揺動から生成される構造の同定など、乱流プラズマの基礎物理の研究に大いに貢献してきました。 本プロジェクトにおいても、PANTAは重要な役割を果たします。本プロジェクトは、実験が主体となっています。 PLATOを構成する部品は全てが特注品となり、その完成には3年程度の年月を必要とします。 その製作期間、実験は、PANTAには、PLATOで主力となるトモグラフィーの開発のためのプロトタイプでプラズマ乱流の観測を行なっています。
PANTAにおける乱流トモグラフィーのプロトタイプ
PANTA装置には、科研費基盤研究A「2次元乱流ダイナミクス観測のための多波長超多点観測法の開発」(H23-25年度 代表者 藤澤彰英)によって製作された乱流トモグラフィーシステムのプロトタイプが設置されています。 本プロトタイプシステムは、4種類の色の発光を、それぞれ132チャンネルの検出器で観測できるように作られていて、PANTAではアルゴンプラズマからの光(ArI、ArIIライン)の計測に成功し有意な揺動スペクトルを得ています。 最初に製作されたシステムは4方向からプラズマを観測するように作られていますが、空間分解能を向上させるために新しく6方向からプラズマを観測するシステムも現在設置されています。 PLATOにおいては、チャンネル数が1500を目指しており、光検出器とディジタイザーだけでも広い設置場所が必要となり、 また高額になることが予想されるために、光検出器とディジタイザーが一体となった、性能を維持したまま安価なシステムが現在開発されています。
最近の実験例
最近の結果を紹介するならば、PANTAプラズマでは通常ガス圧が比較的高い状態では、規則的な非線形振動が生じることが知られています。プラズマは基本的に円対称だと想定されますが、プラズマ発光の定常部分に非対称な発光成分が見られることがあります。この状態で非線形振動のトモグラフィー観測を行うと、非対称部分と相互作用により非線形振動の空間パターンが歪み、その揺動強度が大きく変化することが観測されています。パターンが歪めば、それに伴う輸送が変化すると想定され、対称性の破れが生み出す相互作用は乱流に作用し、閉じ込めにも影響することが予想されます。非対称性の存在は、乱流パターンとの相互作用によって閉じ込め特性に影響を与えることが想像されます。
プラズマ乱流の解析法および理論・シミュレーションの展開
プラズマ乱流の解析法
プラズマ自身の発光を利用するトモグラフィーは、磁場閉じ込めプラズマの内部構造を調べるために、例えば、X線やマイクロ波を用いて鋸歯状波振動やELMの時空間発展を調べるためにこれまでも使われてきています。しかしながら、このプロジェクトで実施するようなトモグラフィーを乱流の計測に用いるのは新しい試みで、乱流を解析にするにふさわしいアルゴリズムの開発や得られた2次元乱流画像―あるいは構造解析法が必要になっています。ここでは、新しい時代の解析法の開発も行っています。
そのほか、トモグラフィーや重イオンビームプローブの大量データ(5Gbyte/shot程度)を扱うことが避けられません。そのためには並列解析法の開発が必要です。ちなみに、科研費基盤研究B(H18-H20年度 代表者 藤澤彰英)「パーソナルコンピュータクラスターを用いたトロイダルプラズマの乱流と構造の解析」により並列処理による乱流データ解析はバイコヒーレンス解析など乱流解析の効率化は既に実証済みです。この試行において40個計算コアを用いた場合、一つの場合に比べ計算時間が1/40になることを確認し極めて高い並列化が乱流のデータ解析に達成されることを確認しています。現在本プロジェクトでは120コアのクラスターによって逐次近似法(ML-EM法)、基底関数展開法(Fourier-Bessel法)、特異値分解法などトモグラフィーアルゴリズムが順調に開発されています。
理論・シミュレーション
理論・シミュレーションについては、乱流計測シミュレータによって乱流パターンやダイナミクスを予測する他、SCTやHIBPの装置効果によって実際に観測される信号をシミュレートすることが期待されています。トモグラフィーの最適視線配置や重イオンビームプローブの観測領域のサイズ効果の評価が期待されています。PLATOにおいては、トモグラフィーの最適視線配置を考える上でも重要です。もちろん、実験結果とシミュレーションを比較することで、乱流プラズマの適切なモデリングを行うこともかのうとなります。乱流パターンを乱流プラズマの構造形成と機能発現(異常輸送、構造分岐、非局所性など)の起源と考え、理論・シミュレーションと協働で磁場閉じ込め配位の最適化問題を考えることは本プロジェクトの重要課題です。