科研費 特別推進研究 2017 - 2022

統合観測システムで解き明かす乱流プラズマの構造形成原理と機能発現機構
- PLATO project -

九州大学 応用力学研究所

研究内容

研究の目的

概要

プラズマ乱流は、近年では核融合研究の領域で研究されてきました。 そこでは、乱流場の大域観測が緊急課題となっています。 しかし、プラズマ乱流の観測は数点あるいは一次元に留まっていて、今も局所から全体を想像する群盲象をなでる状況が続いています。 このプロジェクトではその状態から抜け出すために、乱流の観測に特化した実験装置を製作し研究を一気に進めることを目指しています。

自然の探求と物理学

物理学は宇宙や自然の理解を目指して発展してきました。 そして、その理解が現代社会もたらした恩恵は、我々の周りを見渡せば明らかです。 では、自然を理解するとはどういうことでしょうか? 2つの要素からなっていると考えます。 一つは、自然を構成する物質の根源となる要素とそれらの間に成り立つ法則を探ることです。 もう一つは、そうした物質が集まった時、どのように発展してゆくか、その法則を探ることです。 前者は、物質の根源を探るのに対して、後者は、変容の起源を見出し万物流転の法則を探ることに相違ありません。 このプロジェクトは、乱流プラズマを対象として森羅万象を探る後者の研究に属します。

乱流プラズマ

プラズマは自然界に宇宙、自然界、実験室のいたるところに普遍的に存在します。 また多くのプラズマ非平衡状態にあり、大きな揺らぎを伴って存在し、乱流状態にありものも珍しくありません。 特に実験室では、核融合を目指した研究で扱う磁場閉じ込めプラズマは乱流状態にあることが知られいます。 そして、この乱流状態の理解と制御が経済的な核融合炉の実現の鍵であり、プラズマ乱流は、この半世紀以上にわたり、国際的に熱心に研究されてきました。 またプラズマは、半導体、フラーレン、カーボンナノチューブ、さらにはスーパーダイアモンドをはじめとする新しい機能性物質の創生にも欠かせない技術であって現代文明の基盤となっています。 そのプラズマの構造やダイナミクスを決定しているのが揺らぎや乱流であり、乱流プラズマは、自然界の理解のみならず、近未来の技術の発展のためにも欠かせない研究対象です。

乱流の新しいパラダイム

近年、乱流プラズマの理解は大きく進歩しました。乱流プラズマ中では微視的スケール(イオンや電子のラーマ半径程度の大きさ)の揺らぎがより帯状流(ラーマ半径の数十倍くらい)と呼ばれるような大きな構造を作り上げていることが判明しています。 乱流中の微視的な揺らぎがより大きな構造を創生し、微視的揺らぎを結びつけていることがわかってきました。 その結果、プラズマ乱流は相関時間や距離より遠くでは独立である(局所仮説)とする見方から「プラズマ乱流はスケール間結合によって非局所的で大域相関を持つ」とする見方へと変化しています。 乱流プラズマの特性の理解は局所的知見からでは不十分であり大域相関こそが乱流プラズマの機能(閉じ込め特性など)を決める重要な要素であることが示されています。

また、磁場プラズマでは磁気面と呼ばれる曲面内にプラズマが閉じ込められ磁気面上で物理量は一定(磁気面仮説)と考えれてきました。 しかし、乱流ではこの磁気面対称性は破れ、上下内外の非対称性(乱流偏在)が大域プラズマ流を誘起し局所乱流を再規定すると考えられています。 一握りの実験ですがトカマクでは内外の乱流の非対称性、ステラレータでは乱流が特定のポロイダル位置に局在することも見つかっています。 スケール間結合や乱流偏在が大域相関が乱流プラズマの構造形成や機能発現を理解する上で重要な概念となっています。

目的

このプロジェクトでは、微視的揺らぎの時空間スケールでプラズマ乱流場全域を局所精密に観測(大域局所精密観測)できる実験装置を製作して、プラズマ中の、

  1. スケール間結合の実態、
  2. 乱流の偏在、

を合わせた乱流パターンを計測します。 そして、プラズマ形状がプラズマ乱流の特性に与える影響を探求します。 例えば、核融合を目指した磁場閉じ込めプラズマでは、その断面が楕円に近い、あるいは三角形に近いかでプラズマでは閉じ込め機能が高いことが経験的に知られています。 しかし、乱流の観点から、未だこの問題への解答は得られていないなど、多くの未解決問題があります。 ここでは、世界初の大域局所精密観測を実現し、スケール間結合と乱流偏在の実態を観測し、乱流の観点から異常輸送、輸送分岐、非局所性などのプラズマ特性と構造形成と機能発現の起源を理論・シミュレーションと協働で実験的に解き明かすことを目的とします。